『 あなたのコトバ、あなたのトナリ 』


「おはよう」
「今日はいい天気だな」
「どうだい?」
「大丈夫か!?」
「無茶するなよ」
「・・・おやすみ」
全部がボクの記憶に残っているあなたの言葉で。
その言葉は全部ボクに与えられた言葉で。ボクだけにくれた言葉で。
そんな小さな小さな言葉だけど。
ふとしたときに思い出したりして。
例えば朝起きて朝食を取りに一人で廊下を歩いているときとか。
例えば夜にベッドに入って考えごとをしているときとか。
ボクの口元は自然と緩んだり。
いつの間にかくすくすと声を出して笑っていたり。
そんなホントに小さな小さなことで幸せを感じたりして。
自分は愛されてるんだ、と実感して。
幸せな気持ちで、ボクの胸はイッパイになる。



隊長みたいな、人を惹きつけて止まないオトコの人がどうして僕を選んでくれたのか、ボクは本当に不思議でしょうがなかった。
何ヶ月経っても、昼と夜が何回過ぎていっても自分が隊長にしたことへの罪悪感は消えることはなくて。
傷つけた腕も、もうすっかり癒えて、隊長は「気にすることはない」って言ってくれてたけど。
それでも味方に、隊長に刃を向けたことには変わりはないのに。
それなのに。
そんなボクに彼は少し照れ笑いをしながら、
「そばにいてくれないか?」
と言ってくれたのだ。
その言葉を聞いたとき、ボクは自分の耳を疑った。
だって本当に信じられなくて。
どうして?どうして?
どうして隊長はボクを選んだの?
ボクは隊長の迷惑になることしかやってないのに。
それでも、あなたはボクを選んでくれるの?
どうして?
それはボクの顔に出ていたみたいで、隊長は苦笑いをしながらこう言った。
「レニ、俺は他の誰でもない、君にそばにいてほしいんだ」
君が大事だから。君がそばにいてくれれば俺はどんな運命も受け入れられるよ。
そう言ってくれた。そのときの顔は笑っていたけど、とても真剣なもので。
ああ、本気なんだな、って思った。
そのことを理解したら、自然とボクの目から涙がこぼれた。
それは、ボクにはよく理解できない感情からの涙で。
とても幸せで、少し切なくなった。
隊長・・・ボクは隊長にそんなに想ってもらえるほどすごい人間じゃないよ。
今の世界じゃ考えられないようなことも平気でしてたんだよ?
それでも、いいの?ボクを受け入れてくれるの?
でもそれはボクの口に乗ることはなくて、唇はずっと震えていた。
隊長はボクにそっと近づいて、ボクの涙を親指でぬぐってくれて、そして笑って言葉を紡いだ。
「レニ、俺は君の隣にいるにはふさわしくないかもしれない。でも、・・・でも、俺は君のそばにいたいんだ。
 君の知らないことを教えてあげたいし、君のまだ見せていない部分もわかりたい・・・。俺に君のそばにいさせてくれないかな?」
そんなことを言われるとは思ってもいなくて。ボクの隣にふさわしくないなんて、そんなわけない。むしろボクの方が・・・。
<隊長の隣にふさわしい女の子なのかな?>
そう思って。ボクなんかよりさくらやマリアとか、他にもふさわしい人はいっぱいいる。ボクじゃ隊長につりあわないよ。
そんなことが頭をかすめたときだった。
「レニは俺の一番大事な女の子だよ」
ボクはその言葉に下げていた頭を反射的に上げた。目の前には隊長の整った凛々しい顔があった。
その顔は今まで見たこともないくらい優しく微笑んでいた。
また、ボクの目からは涙がこぼれた。
一番大事・・・・、最も大事ってこと。
星の数ほどいる女の子の中でボクが一番大事・・・・。
「たいちょ・・・・でも・・・・」
すごく嬉しかった。ホントに信じられなかった。なんて幸せなんだろうって、そう思った。
でも、手放しには喜べなかった。
だって知っているから。
他のみんなも隊長のことが好きだって。
みんなもボクと同じ気持ちを隊長に抱いてるんだって知っているから、それを痛いくらいわかっているから、ボクは素直に喜べなかった。
隊長はみんなが自分のことをどう思っているか知らない。
みんなも隊長が何を考えているか知らない。
ボクだけが、ボクだけが全部を知っていて。
みんなの気持ちも、・・・隊長の気持ちも。全てを知っていて。
本当なら、今ここでちゃんと隊長に『みんなも隊長のことを想っている』って告げるべきだと思う。
でも、そうはできない自分がいて。
もし隊長にそのことを告げたら、隊長はきっと自分から離れていってしまう。
仲間が大事。
隊長が大事。
どっちがより大事かなんて、ボクにはとても決められない。
それで、ボクの心は振り子のようにゆらゆらと揺れていた。
ああ、神サマ。ボクはずるい人間です。
どちらも手放したくないから。どちらもボクにとってかけがえのない人たちだから。
どちらも傷つけたくないけど・・・でも。
今のボクには黙っていることしかできません。
そしたら隊長は、また驚くようなことを言った。
「レニ・・・俺は知ってたんだよ。みんなが俺に好意を持っていることを。でも、俺は知らないふりをしていた。
 知ってたけど、深く考えないようにしてたんだ。・・・俺はずるいから。みんなのオレを慕ってくる顔を見ていたらそうするのが一番だと思った。
 そうすれば誰も傷つけることはないし、ずっとこのままでいられる・・・。そう思ったんだ」
でも、と隊長はいったん言葉を切った。
「それは違った。そんな独りよがりの甘い感情はみんなを深く傷つけるだけだったんだ。しかし、気づいた所でどうしようもなかった。
 もう、後には戻れなかった。・・・そんな時、現れたのが・・・レニ、君だよ」
ボクは隊長の話を黙って聞いているしかなかった。
隊長がみんなの気持ちを知っていたことに驚いて。隊長がそんなことを考えていたのにも驚いて。
ボクは驚くことしかできなかった。
「初めは・・・ちょっと気になる程度だった。誰にも心を開かない強い人間。俺は興味をもった。君の閉ざされた心を開きたいと思った。
 そして、あの水孤に君が操られた日。オレの腕の中に落ちてくる君を受け止めたとき、俺は思った。<ああ、なんて弱い子なんだろう>ってね。
 強い強いと思っていた子はこんなに儚い。俺はこの子を守りたい、この子の隣にいたいと本気で思ったんだ」
そして今に至ってる、と隊長は苦笑いしながら言った。
そんなにみんなとの関係が壊れるのが嫌だった隊長が、ボクのためにそれを捨てると言っているように、ボクの耳には聞こえた。
喜んじゃいけないけど、喜びが広がるのをボクは抑えられなかった。
隊長は自分のことをずるいって言ったけど、それならボクの方がよっぽどずるい。
ずるいならいっそ、堕ちる所まで堕ちてみようか。
いくら堕ちていっても、隊長のことがスキだって気持ちは変わらないのだから。
「ありがとう・・・隊長。ボク、嬉しいよ。・・・・隊長。ボク、隊長のこと・・・」
言おうとして、口を開きかけた所で隊長は人差し指をボクの口に当ててボクの言葉を制した。
「レニ、俺から先に言わせてくれないか?・・・・・レニ、好きだよ」
ボクは目を閉じてその言葉の与えてくれる幸せに酔った。その言葉の与えてくれる幸せは今まで感じたことがないくらいで。
またボクの目からはすっと涙が流れた。
「隊長・・・・・・・・ボクも、隊長のことが好き」
ボクがそう言うと、隊長は顔を赤くしながらニッコリと、笑った。
ボクも顔を真っ赤にしながら微笑み返した。



ここに来てから、幸せと言う言葉の意味を知った。
でも、一番幸せなのは。
あなたがくれる『好き』と言うコトバ。
そして。
あなたの隣にいること。

ボクの居場所は、あなたのトナリ。



■なおき様■大レニ■2003/08■暑中見舞い
<<戻る>>


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理