『 ちょこっと復讐 』



隊長室の扉を叩く。
ボクの復讐を確かめるために。
疑われないための口実を用意して・・・。

コンコン
「レニかい?どうぞ」
乾いた音が響いたあと、隊長の声がした。
さぁ、舞台の扉を開けよう。
ボクの役をしっかり演じてみせる。

ボクはゆっくりと扉を開けて、そっと覗き込んだ。
少し不安げに。
「隊長・・・いい?」
そして、素早く舞台を観察する。
家具は変わらない。変わっているのは壁際に並んでいる紙袋が三袋。
机の上に、色とりどりの包装紙とリボンに飾られた箱が七つ。
開封されている箱がひとつ。
隊長は椅子に座ったまま、振り返ってボクの姿を確認した。
「どうしたんだい?レニ」
隊長の体が横になって、しっかり確認できた。
唯一開封されていた箱は、昼過ぎにボクが隊長に渡したものだった。
12個あった中身は5個に減っていて・・・仕込んだものはなくなっていた。
ちょうどいい。
「あの・・・ボク、トリュフチョコレートをはじめて作ったんだけど・・・味、どうだったのかと思って」
あれをおいしいと言えるはずがない。
それなのに、隊長ったら、
「いい味だよ」
なんて言うから。
「本当に?」
重ねて訊くと、隊長の表情がわずかにゆがんだ。
「・・・ボク、失敗したんだね」
すごく悲しそうな顔をしてみせる。
でも、謝らないよ。
隊長が悪いんだから。
ボクは「ボクが悲しそうにしたときの隊長の反応」を学習していたから。
「いや、あの・・・」
予想通り、隊長は困ってうろたえていた。
いい気味。
ボクは、あまりにも隊長が予想通りの反応をするので、見ていられなかった。
うつむかないと、口の端があがるのを見られそうで。
そうしていると、隊長の手がボクの頭にのった。
「ごめんな、レニ」
どうして?
ボクは顔を上げて隊長を見上げた。
隊長は・・・苦笑をしていた。
「本当は、1個、すごく塩辛かった」
ああ、嘘をついたことか。
「隠し味を入れた時に、うまく溶かせてなか・・・」
用意した言い訳を言い終わる前に、隊長は首を横に振った。
「レニの性格を考えると、そんなことありえない。わざとだろう」
「ボクが隊長に意地悪をしたというの?隊長のこと、こんなに好きなのに」
隊長の的を射た言葉に、ボクは強めに反発した。
大好き。大好きだよ。だから・・・ボクは。
「よくわからないけど、俺、レニを傷つけちゃったんじゃないか?」
ボクは、感情が真っ白になった。
「ごめんな。俺がレニの気持ち解からなくて。だから、直接言ってくれたらいいんだよ」
隊長が、ボクをぎゅうっと抱きしめてくれた。
最初は、何が起こったのか解からなかった。
ボクの目から、ボロボロと涙がこぼれた。
泣いていた。
演技ではなく、本当に。
ボクは・・・嬉しくて、泣いていた。

きっかけは、些細なことだった。
隊長が、若い女性のお客さんに握手を求められただけ。
それなのに、隊長の顔を見てると怒りが込み上げてきた。
ボクに好きだといってくれたのに、隊長がでれでれするから。
隊長が、悪い。
そう思うと、隊長に復讐することしか考えられなかった。
計画を練って、塩味のチョコレートを1個作った・・・。

話し始めた頃は「いいっ」とか「はは・・・」と百面相をしていた隊長だったけど、だんだん真剣な顔になって、最後に微笑んでくれた。
「レニの復讐は可愛いもんだよ」
隊長は、ボクを責めない。
女優を舞台から引き摺り下ろして、仮面をはがして、ボクに戻して・・・それでも。
解かってるんでしょう?
責められないことが、つらいときもあるんだって・・・。
ボクが隊長の気持ちを疑ったから。
隊長が・・・。
また涙がにじんでくるのを止められない。
「泣かないでくれよ。レニに泣かれると、困るから」
隊長の大きな手が、ボクの頬に触れた。
「でも、ボク・・・隊長にひどいこと・・・」
「どんなにひどいことをしても、俺はレニを許すよ」
許す・・・?
ボク、隊長を疑ったんだよ。
「隊長を信じられなかったのに・・・許してくれるの?」
「完璧な人間なんて、いやしないさ。それに・・・レニが好きだから、レニを手放すより許すほうが簡単だからさ」
「こんなボクがいいの?」
「レニじゃなきゃ、嫌なんだ」
隊長が怒ってる。
どうしよう。
そんなこと、言われたら・・・。
「ありがとう。すごく・・・嬉しい」

ボクはもう復讐のための演技をすることはないだろう。
復讐の計画なんか練らなくても、素直に伝えればいいって解かったから。
隊長は、いつでもボクの望むものをくれてたのに。
優しい言葉を・・・心を。



■高槻裕様■大レニ■2006/03■バレンタインSS
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