『 セミの声 』



「アイリスが、言ったんだ」
セミが、可哀想だと。
6年間も地下で育ち、やっと地上で飛びまわれるようになっても1週間で死んでしまうからだと。
「だから、レクイエムに聞こえたんだ」
あの騒がしい声が。
ボクにとって、セミの一生とはそう言うもので、可哀想なんて思ったことなかったのに。
アイリスの優しく感傷的な言葉が、ボクを変えた。
セミの見方を変えた。
「お前は、幸せかい?」
「幸せだよ」
そう答えたのは、隊長。
ボクの頭をくしゃくしゃにしながら。
優しい目で、ボクを見ていた。
・・・ああ、そうなんだね。
ボクは笑った。
隊長も、笑った。
ボクも、闇の中にいた。
でも、隊長が光をくれた。
戦闘部隊に所属して、人並みに生きられないかもしれないけれど。
ボクは幸せだから。
お前も、幸せなんだね。
「隊長も、幸せ?」
満面の笑みを浮かべた顔が近づいてくる。
ボクは軽く目を閉じた。
鎮魂歌が消えた。
「幸せだよ」
隊長の息がボクの耳にかかった。
ボクも幸せだよ。
幸せだけど・・・
隊長なんか、嫌いだよ。
「どうしたんだい、レニ」
隊長の向こうから、歓喜の歌が響いてきた。

それでも、・・・好き、だよ



■高槻裕様■大レニ■2006/08■残暑見舞い
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