すみれが花組を辞める。 それを聞いてから・・・もう何も考えられなくなっちまった。 だってそうだろ?あいつは、花組のトップスタァだぞ!?それなのに・・・いきなり「引退します」なんて通用するかよ! あたいは、何としてもすみれを辞めさせまいと思った。辞めさせてたまるかよ。 みんなだって・・・同じ想いのはずだろう? 花組は、8人揃って花組なんだ。誰一人欠けてもいけねぇんだよ。例え、それがあんなサボテン女でも! 「すみれがそう決めたことなら・・・黙って従うべきだと思う。自分の限界は、自分にしかわからないから・・・すみれだって、悩んで・・・考え抜いたことだと思うから」 レニ・・・お前は、それでいいのかよ!?お前は、まだ一回もすみれと組んで主役やってねぇだろう? 「それでも、多くの舞台を共に踏めた。確かに主役として共演することはなかったけど・・・ボクは、それで充分だ」 あたいにはわからねぇな。あたいは・・・認めねぇ! 「・・・カンナ。ボクだって寂しい。すみれは、ボクの大切な仲間だから。だから・・・だからこそ、すみれの意志を尊重してあげたいんだ。ボクには、それくらいしかできないから・・・すみれにしてあげられること、思いつかないから」 ・・・いや、そんなことねぇよ。ぜってぇに他にもやってやれることがあるはずだぜ。なぁ・・・探してみようぜ?な・・・レニ。 「アイリスだって・・・すみれに辞めて欲しくない。アイリス、すみれにいっぱい迷惑かけちゃった。まだ、迷惑しかかけてないもん。アイリス・・・まだ、まだ、すみれに・・・」 そうだよな、アイリス。アイリスは、これからもっといい女優になって、すみれを追い抜かしてやるんだろう? 「・・・でも、レニやかえでお姉ちゃんに言われたの。この「けつだん」は、すみれが一番辛い思いをしてるって・・・アイリスも悲しいけど、すみれはもっと辛いって。だから、すみれのために、アイリスがんばるんだもん。すみれの舞台での姿、絶対に絶対に忘れないようにするんだもん」 アイリス・・・ 「ウチかて驚いたわ。でも・・・仕方ないんやろうなぁ。あのすみれはんが、自分で決めたことや。どんなことにでも一生懸命で、自分が正しいと思ったことには、真っ直ぐに突き進んでいく・・・そんなすみれはんの決めたことや。ウチらが何か言えるようなもんでもないんとちゃいますやろか」 んなことあるかよ!あたいたちは仲間だぜ?家族なんだ! 「家族やからこそ・・・黙って見送ってやるんです。いつでも帰ってこられるようにって。どんなすみれはんでも、すみれはんには変わらへん。いつまでも、すみれはんは仲間や。ウチの大事な・・・家族なんや」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「すみれさんが限界?そんなことあるわけありませーん!すみれさんに限界はないでーす!」 そうだよな、織姫!あいつはなんだかんだ言ったって、一応トップスタァなんだ!トップスタァってのは、いつでも輝いてなくっちゃいけねぇ。 「そうでーす!だからこそ・・・だからこそ、今辞めるなんてあんまりでーす!私は・・・もっともっとすみれさんと舞台に立ってみたかったのですよー!?それなのに・・・勝手に決めるなんて酷いでーす」 そうだよ!あたいたちに何の相談もなく、いきなり「辞める」なんて、酷すぎるよな、織姫。 「・・・でも・・・」 でも? 「わかってるですよー・・・こんな日々がいつまでも続かないこと。いつか必ず終わりは来るでーす・・・それが・・・突然やってきてしまっただけなんだってことは。すみれさんだけじゃないでーす。私たちだって、いつ霊力がなくなるかもしれない。舞台に立てなくなるかもしれないのでーす。役者は舞台に命をかける者・・・戦いと一緒でーす。引き際も、肝心なんでーす」 織姫・・・お前、それでいいのかよ。 「いいも何も・・・あのすみれさんが決めたことでーす。それなら・・・仕方ないことでしょー?」 織姫・・・お前・・・ 「トップスタァであるすみれさんが引退なんて・・・考えもしなかったです。すみれさんはいつも舞台のセンタースポットにあって、凛とした姿で歌って、踊って・・・。すみれさんがいない花組なんて、考えもつかない」 ああ、そうさ!花組は、誰が欠けてもいけねぇんだ!だから・・・だから、やめさせようぜ?引退なんて、させるわけにはいかねぇんだよ。 「でも・・・すみれさんに怒られちゃいました。あなたもトップスタァになるのよって。私の決心を鈍らせないでって・・・。そうなんですよね・・・私だって、いつかすみれさんを超えてみせるって、そう思ってなきゃなんですよね。そうでなきゃ、すみれさんが安心して引退できないもの」 さくら・・・ 「だって、あのすみれさんに言われちゃったんですよ?いつか私もトップスタァになるんだって。それなら・・・なってやらなくちゃ、申し訳ないじゃないですか。いつまでもくよくよしてたら、そんなことできないもの。今度再会した時「私の抜けた穴も埋められないんですの!?いつまであなたはそうやってるつもりなのです!」なんて言われたら嫌ですもの。だから・・・がんばらなくっちゃ」 なんで・・・なんでそんなに簡単に諦められるんだよ!あたいたちは仲間だろ!?家族だろ!?なんでそんなに冷たいんだよ! 「冷たいわけじゃないわ。みんな、それぞれ苦しんで苦しんで・・・ようやく見つけた答えなのよ。みんなすみれが大好きだから・・・すみれの気持ちを尊重したかったの」 マリア・・・ 「ねえ、カンナ。すみれにはすみれの想いがあるのよ。その想いを・・・尊重してあげましょう」 いいや、あたいは認めねぇ。だいたい、あいつは・・・いつもいい加減すぎるんだよ!今度の事だって、あたいたちに一言の相談もなく勝手に決めやがって! 「それは・・・私たちに相談したら、止められるってわかってるからよ」 当たり前だろ、そんなの!大事な仲間がいなくなるってーのに、引き止めない奴がいるかよ! 「だから相談しなかったのよ。私たちはきっと、何とかしてすみれを花組にとどまらせようとしたでしょう。例え、すみれが少々のお荷物になったとしても」 あいつがお荷物になるわけねぇだろ!? 「でも、霊力が弱くなり、光武をまともに動かせなくなったらいやでもそうなるわ!もしあなたが光武をまともに動かせなくて、みんなの足手まといになったら・・・あなた、どうする?」 ・・・それは・・・ 「それと一緒よ。すみれは、自分だけのことを考えて今回のことを決めたんじゃない。みんなのことを考えて決めたのよ。それなのに・・・あなたはそれすらわかってあげようとしないの?」 そ、それは・・・ 「すみれのことを想っているのなら・・・すみれのために、今何ができるか。すみれが、今どういう気持ちなのか。それを考えるべきよ、カンナ」 すみれの、ために・・・ それから、あたいは何とかしてすみれを思いとどまらせようと考えてる自分と、すみれの想いを尊重してやろうと考えている自分と、何だか自分が2人いる感じだった。すみれがいない花組なんて考えたくなくて。でも、あいつのこと考えると・・・引き止めちゃいけない気がして。 ああ、もう!頭ごちゃごちゃになりそうだぜ! でも・・・そんなあたいに、あいつはこう言った。 「どうして、後は任せろって・・・お前がいなくても大丈夫だって、言っては下さいませんの!?」 ああ、そうか・・・って思ったんだ。 こいつは、ホントは引退なんかしたくないんだなあって。 こいつは、ホントに花組が好きなんだなぁって。 こいつは・・・普段はムカツクサボテン女だけど、あたいのことを、信じて、頼っててくれたんだなあって・・・。 泣いた。声上げて、バカみたいに泣いた。子供みたいに、泣いて泣いて・・・あたいは、すみれのことが本当に好きなんだなって・・・思った。 すみれが帝劇から去る日・・・ 「それでは皆様・・・お世話になりました」 深々と頭を下げるすみれ。 アイリスはずっと泣きじゃくって、レニがその手を握ってる。紅蘭も口をへの字にして、それでも笑おうとしてる。マリアは少しだけ寂しそうに笑って、織姫はつんっとした顔で、でも、目は優しい。さくらは、しっかりとすみれを見据えて、微笑んでた。 あたいは・・・すみれの顔が見れなくて。挨拶だけ済まして、今、テラスからすみれを見てる。 「すみれ、これ・・・」 マリアが、赤い包みを渡す。 「これは・・・?」 「カンナからあなたへ」 「カンナさんが?」 すみれが包みを開けてる。ちょっと、気恥ずかしいけど・・・あたいの気持ちだ。 「これ・・・何のお花ですの?」 「ミヤコスワレ。花言葉は・・・『また会う日まで』」 「!」 「一昨日、急に私のところに来てね。こういう意味の花ねぇかなって。言葉で伝えるのが気恥ずかしいから・・・でも、あなたに伝えたい想いがあって。不器用だけど、カンナの気持ちよ」 あああっ!マリアの奴いらねぇことまでべらべらしゃべりやがってぇぇぇ! 「カンナさん・・・」 「もちろん、私たちも同じ気持ちですよ、すみれさん」 「そうやで、すみれはん」 「いつでも帰ってくるがいいでーす」 「そうよ。いつでも遊びに来なさいね」 「公演のチケットも送るから。みんなの芝居、見に来てくれよ」 「待ってる、すみれ」 「ぐすっ・・・すみれぇ・・・いつでも遊びに来てね。アイリス、待ってるから・・・」 すみれが、上を見る。あたいのことを・・・見つける。あたいは、昨日の夜から決めてた言葉を・・・笑顔で・・・伝えてやるんだ! 「・・・じゃあな、すみれ」 「・・・ええ。ごきげんよう、カンナさん」 軽く、手を上げる。すみれが、笑う。 それが合図だった。 すみれが車に乗り込む。ゆっくり走り出した車は・・・やがて、黒い点になって、視界から消えていった。 「・・・カンナ」 マリアが、あたいのことを見てる。花組のみんなが・・・かえでさんが・・・隊長が・・・あたいを見てる。 「がんばったわね」 ばかやろう。あたいは子供じゃねぇよ。お前と同い年だぜ、マリア。 ああ・・・でも、やっぱし子供かなぁ。アイリスのこと、子供だなんて言える立場じゃねぇかもなぁ・・・。 だってさ、あたい・・・目から涙が止まらねえんだよ。昨日、今日絶対に泣かない為に目一杯泣いといたのに・・・ぜんぜん、意味ねぇじゃねぇかよ。 ちくしょう・・・あーあ、何だか悔しいぜ。 あたい、あんなサボテン女のこと・・・・・・・・・・・・・・・好きだったんだなぁ。 「カンナ」 「カンナさん」 「カンナはん」 「カンナ」 隊長が、呼んでる。さくらが、紅蘭が・・・みんなが呼んでる。 「・・・おう!」 あたいは笑って、そう応えた。 そうさ。笑って笑って・・・すみれがいなくっても、あたいは笑ってなきゃ。離れてたって、あたいたちは仲間だ。大事な家族だ。そのことに変わりはないんだから。 すみれに再会したとき、何かいちゃもんつけられないように・・・何より、すみれが信じてくれたあたいでいられるように。 「中に入ろうぜ。いつまでもここにいてもしょうがねぇもんな」 へっ、みてろよサボテン女!おまえがいなくっても、花組は負けたりしない。お前が引退したのを悔しがる位すんげぇ舞台を作ってやる! 見てろよ〜・・・・こんの、ヘビ女ぁぁぁぁ!!! |