『 残暑 』「今年の夏も終わりかぁ。」 やっと行くことができた夏祭りの帰り道、2,3歩先を歩いていたレニが、ふいに空を見上げてつぶやいた。 「そうだな。でも、ほら秋にも祭りはあるし、美味しいものも沢山あるじゃないか。」 笑顔でそう言うと、彼女は少し拗ねた顔をして、 「そうだけど。やっぱり夏が好き。春も秋も冬も好きだけど、夏が一番好き。」 そう言って、彼女はくるっと廻り、たったったと駆け出した。 「おいおい、待ってくれよ〜。」 俺は相当なさけない感じだったのだろう。少し先で待っていたレニは、また少し顔をしかめた。 「ごめんよ。別に、何も・・・」 「しらない。」 頬を膨らませ、ぷいっと顔を背けるレニはいつもより可愛い。怒っている彼女には悪いが、顔がニヤけていた。 「もう、ニヤけてる。」 「ごめんごめん。」 すっかりご機嫌斜めなお姫様をなだめるにはどうすればいいのだろう。思い切っておどけてみた。 「ご機嫌を直していただけませんか、フロイライン?」 中世ヨーロッパの騎士のようにひざまずき、彼女の白い手の甲に口づけする。顔を見上げると、怒りと羞恥によってであろう真っ赤になっていた。 「じゃぁ、・・・あそこでリンゴ飴買ってくれたら。」 「はい、かしこまりました。」 手をつないで、リンゴ飴を買いに行くと店じまいの途中だったからか、半額にしてくれた。大事そうに、少しづつかじるレニがまた可愛くて見とれていた。 「隊長、またニヤけてる。」 「いいっ!?そ、それは、それだけレニが可愛いってことだよ。」 そう言って、彼女の額に軽くキスすると、 「たいちょおのばか。」 小さい声でそう呟いた。 結局、手をつないで帰っているとき、さっきのことを思い出したので聞いてみた。 「そういえば、何で夏が好きなんだい?」 「それはね、僕を変えた舞台『青い鳥』の季節だし、アイリスとももっと仲良くなった 季節だし。それに・・・。」 「それに?」 「心を取り戻せたから。隊長のことを好きって思えるようになった季節だから。」 そういって、最高の笑顔を見せ抱きついてきた。心を取り戻したあの時のように。 「好きだよ、隊長。」 「俺もだよ、レニ。」 二人は、ごく自然に口づけをした。 夏の終わり、どこかでヒグラシが鳴いていた。 |