扉を閉じて、明かりをつけた。 眠れなくて、書庫から本を持ってきたんだ。 眠れない理由はわかっている。 隊長があの人の部屋を訪ねていたからだ。 ……仲、よさそうだった。 この頃隊長はあの人と一緒にいることが多い。 悔しくなって、右手を軽く握り締めた。 軽く首を振ってから、もってきた本を開く。 そういえば、どんな本を選んだのか……。 思い出せなかった。 扉の隙間から明かりがもれている。 二度ノックして、返事がくる前にすばやく滑り込んだ。 後ろ手にドアを閉めた。 驚く隊長の表情は予想されたものだ。 この時間に部屋を訪れるのは初めてのことだし、 今の衣装が隊長にどんな印象を与えるかは想像できる。 「衣装部屋で見つけたんだ。 この衣装、どう思う?」 表情を崩して笑ってみせる。 硬直したままの隊長が赤くなった。 「いったいどうしたんだ」 そう聞かれた。 「僕がこんな格好するのは、変かな?」 正直に変だ、といえる隊長じゃない。 そのくらい、僕にでもわかる。 一歩近づくたびに僕の胸が高鳴っていく。 隊長の視線を痛いくらいに感じる。 「隊長、逃げないで……。」 腰を浮かせかけた隊長をそういって止めた。 座ったままの隊長の頬に手を添える。 軽く上をむかせて、その瞳を覗きこんだ。 「それとも、僕のこと、嫌い?」 そのまま隊長の首に両腕をまわす。 体重を預け、耳元で囁いた。 「……ねぇ、隊長?」 甘い声、というのはこういうものなのか。 自分でも初めて知った気がする。 隊長がごくりと喉を鳴らすのがわかった。 そして隊長は―― ――あれ? ふっ、と身体の力が抜けた。 「……レニ!」 という声が聞こえた気がした。 ……目の前に隊長の顔がある。 覗き込んでいるのは僕ではなくて隊長の方だ。 僕がいたのはベッドの上で、 見上げる天井は僕の部屋のものだ。 「大丈夫か?」と聞かれたので 大丈夫と答えた。 「僕がどうかした?」と聞いたら 明かりがついたままノックをしても返事がないので ドアを開けたら僕が倒れていたそうだ。 倒れた覚えはなかった。 何故そうなったんだろう。 そういえばさっきの夢は……。 迷いがあったけど、聞いた。 「隊長、僕、隊長の部屋にいった?」 「いや、来てないけど?」 それが隊長の返事だった。 やっぱり夢、だったのかな? ……ちょっと残念に思う。 もう少し続きを見たかったのに、と。 唐突に思い出した。 さっきの本は、何処においたのか。 見回すと、床に一冊の本。 開いたページが下に、表紙が上になっているので 読みかけで落としたようだ。 題名は……悪魔辞典? ページを閉じないように持ち上げる。 そこには「夢魔」とあって……。 本を閉じた。 そう、挿絵に人型の空白があったのだって、きっと偶然だろう 。 そんな事を考えていたら頭をくしゃ、ってされた。 なんとなく照れくさいな、って、 そう思って顔をあげたら隊長が 「レニの寝顔はかわいかった」 なんて言うから頬が熱くなってきた。 思わず下を向いた。 そうしたらククっという声が聞こえた。 ちらりと見ると隊長は口元をおさえて身体をふるわせている。 どうやらからかわれたみたいだ。 僕はムッとした。 でも「いや、安心したよ」と そう言われると、なんとなく許してもいいかな、っと思えてく る。 もっと話していたかったけど隊長は 「まだ見回りがあるから」 と言って、部屋を出て行ってしまった。 しょうがないことなのに 寂しい、と感じる僕がいる。 また明日、隊長に会いに行こうと思う。 |